2021年7月23日

国歌『君が代(きみがよ)』は、1000年のときを超えた先人からの手紙――絵本『ちよにやちよに~愛のうた きみがよの旅』

7月23日は「ふみの日」です。

毎月23日は「ふみの日」ですが、とくに7月は「文月ふみの日」として親しまれています。夏休みが始まり、暑中見舞いを書く季節でもありますね。

子どものころ、長い夏休みで会えない先生や友達に、よく暑中見舞いのはがきを送りました。立秋を過ぎると、「暑中見舞い」ではなく「残暑見舞い」になり、残り少ない夏休みを名残惜しんだことを思い出します。

ふみの日は、「手紙の楽しさ、手紙を受け取るうれしさを通じて、文字文化を継承する一助となるように」という主旨で、1979年に当時の郵政省が定めたものです。

郵便局では毎年、「ふみの日にちなむ郵便切手」を発売します。なかでも「日本の雅を伝えたい」と百人一首を題材にした切手が人気で、過去にいく度となく発売されました。

百人一首にふくまれるものをふくめ、和歌はまさに、古くは日本人の間でやりとりされた「手紙」でした。でも私たちの身近には、より馴染みのある和歌があります。

文屋は7月9日に、この和歌をテーマとする絵本『ちよにやちよに~愛のうた きみがよの旅』を出版いたしました。

わがきみは ちよにやちよに さざれいしの
いわおとなりて こけのむすまで


国歌『君が代』の歌詞は、平安時代に詠(よ)まれたこの和歌を本歌とするものです。

それは、名もなき人物が愛する人に宛てた「手紙」。ラブレターでした。

「たいせつな あなた
あなたの いのちが いつまでもいつまでも
永く つづきますように」


愛しい相手の健やかな未来を祈るラブレターです。

7月4日、文屋は絵本『ちよにやちよに~愛のうた きみがよの旅』の出版記念講演会を行いました。

作者である白駒妃登美(しらこまひとみ)さんをはじめ、制作チームメンバーが参加し、それぞれに絵本への想いを語りました。

そこで白駒妃登美さんは、『わがきみは』の句と、百人一首にもふくまれるもうひとつの和歌のお話をしてくださいました。

――――――
平安時代に編纂された『古今和歌集』。

ここには、『君が代』の本歌「わがきみは」の句とともに歌い継がれてきた
もうひとつの和歌があります。

ひさかたの ひかりのどけき はるのひに
しづごころなく はなのちるらん


「春ののどかな光の中で、散るゆく桜の花びら
なぜそんなにも散り急ぐのか」


そんなふうに、桜を惜しむ想いを詠んだ、
歌人・紀友則(きのとものり)の和歌です。


かたや「詠み人知らず」の和歌。
そして、かたや有名な歌人の和歌。
この二首を日本人は、ならび讃(たた)えてきたのです。

じつは私は、とても緊張したときや、ひどく絶望したときに、
「ひさかたの」の句を心のなかで唱えています。

「ひさかたの」は光にかかる枕詞(まくらことば)。
この「ひさかたのひかり」とは、「永遠の光」ということ。

それは、日の本(もと)の国「日本」を表している気がします。

この国に無数の人が生を受け、その命をまっとうして生を終える。
その何千年もの命のバトンを受け取っている私たちは、
決してひとりではない。

そんなふうに思えて、力が湧いてくるのです。

たった31音、もしくは32音の和歌の力と深さ。
そこには日本人の真心が込められています。

この和歌とならび讃えられる、もうひとつの和歌。
ごくふつうの人がつくった和歌「わがきみは」の句が
やがて「きみがよは」とされ、国歌になったのです。

平安時代からとどけられた愛と祈りの歌。
ラブレターが国歌になるなんて、
なんと素敵な国なのか、と思います。

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最近では、メールやLINEなどさまざまな通信手段が発達して、手紙を書くことが少なくなりました。

31音の和歌で伝えられるのは、Twitterよりも短い文。でもそこに込められる想いは、1000年のときを超えて私たちの心を潤してくれます。

その想いに触れ、この夏はあなたも誰かに手紙を書いてみませんか。

絵本の原画より、5種類のポストカードを制作しました。暑中見舞いにもおすすめです。
現在、販売準備中です。お楽しみにお待ちください。

絵本『ちよにやちよに~愛のうた きみがよの旅』の巻末には、絵本の朗読動画をご案内するQRコードがついています。

日本語で読み語る作者の白駒妃登美さん、そして日本語と英語で交互に読み語る英訳者の山本ミッシェールさん。挿し絵の画像が音楽とともに流れる動画と、音声データを視聴することができます。

ぜひ、親子でお楽しみください。

この絵本を国内外の子どもたちに贈る「寄付本プロジェクト」を展開中です。絵本のご購入も、こちらから可能です。

https://e-denen.net/kifubon-chiyoni/

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