2022年3月24日
「いま、世界情勢が混迷を深めるなかで、この伊那の地から、何かがはじまるんです」(白駒妃登美さん)
去る3月10日午後、長野県伊那市にある伊那食品工業本社のセミナールームにて、絵本『ちよにやちよに~愛のうた きみがよの旅』(文屋)出版記念ビジネスセミナーが開催されました。
なぜ、この場で行われることになったのか――。
絵本『ちよにやちよに』は、私たち日本人の多くが抱いてきた国歌『君が代』の世界観を大きく変えるものです。
著者である白駒妃登美さんが、絵本をとおしてもっとも伝えたかった利他の愛。日本人が永く受け継いできたこの美しい心を、いま経営の現場でもっとも具現化しているのが、伊那食品工業です。
版元、そして制作チームの一員として絵本『ちよにやちよに』をともに育ててきた文屋代表の木下豊は、この絵本と伊那食品工業のビジネスのあり方は、根がしっかりとつながっていると確信していました。
木下は昨年末、伊那食品工業の最高顧問、塚越寛さんと白駒妃登美さんのご縁をつなぎました。この出会いが生み出す大きな力を発信すべく、同社での出版記念ビジネスセミナーの開催が決定したのです。
今回は二部制プログラムの第一部、冒頭でご紹介した一言ではじまる白駒妃登美さんの講演についてご紹介します。
伊那は博多の歴女と言われる白駒さんにとって、深い思い入れがある場所。この地で利他の経営を実践する塚越寛さんとのご縁に運命を感じた白駒さんは、ゆかりある人物たちのことを熱く語り始めました。
長野県伊那市は江戸時代、高遠藩として成立。「この混迷した現代にもっとも蘇って欲しい人物」と白駒さんが語る保科正之公は、将軍縁者であり、この地を納めた大名のひとりでした。
正之公は、江戸期最大の火事で焼失した江戸城の天守閣の再建より、民衆たちの生活を安定させる公共事業を優先すべきと進言した人物です。世界でも争いが絶えなかったこの時代、200年も天下泰平の世を継続した江戸期のリーダーシップの象徴でありました。
伊那の地を生きた人々の心の交流を、白駒さんは続けます。
高遠最後の藩主となった内藤家は、この地を去るとき領民たちに家宝のほとんどを譲りました。互いに感謝し合う思いやりにあふれた日本有数の地である証しとして、いまも高遠の歴史資料館には、他にないほどの多くの美術品が残されています。
明治から昭和にかけ政治家として生き、郷土高遠の治山治水に努めた伊澤多喜男氏の功績を後世に伝える「無字の碑」。「政治家が人々のために尽くすのは当然」と石碑の建立を固辞する多喜男氏の想いを汲みつつ、あふれる感謝の想いを抑えられなかった地元の人たちは、想いの結晶として文字を刻まない石碑を残しました。
多喜男氏の兄、伊澤修二氏は教育家として台湾の教育発展に尽くした人物。その感謝の気持ちから、いまも日本で大災害が起こるたびに、台湾から大きな支援があります。
白駒妃登美さんが語るこうした歴史は、単なる「過去」ではありません。
私たちが「いま」何を問い、それにどう応えるかを考えるきっかけを与えてくれるもの、さらにそこから「未来」へとつながる行動を導いてくれるものです。
伊那の地に根づく利他の愛は、日本人が古来もちつづけてきた和を尊び、命を慈しむ心。それは白駒さんが絵本『ちよにやちよに~愛のうた きみがよの旅』をとおして伝えたかった、もっとも大切なメッセージです。
国歌『君が代』の元歌は、1100年以上前に詠まれた和歌でした。
わがきみは ちよにやちよに さざれいしの
いわおとなりて こけのむすまで
「衝撃を受けました。実は私は高校生のころ、もっとも好きな授業は古文だったんです。【きみがよ】じゃなく、【わがきみ】だったんだ、と。【わがきみ】というのは、主に女性が愛する男性にたいして使う言葉なんですよ。だから『君が代』の元になった和歌って、愛の歌・・愛の歌だったのね、と。ただひたすら愛する人の長寿と幸せを祈る、究極の愛の歌だったんです」(白駒妃登美さん)
この歌がこれほど永く歌い継がれたのは、「あなたの幸せが私の幸せ」と感じられる利他の心が日本人に共鳴するものだからです。
「自他を区別しない一体化された世界観というのが、日本人の精神性の源泉だった」
白駒さんは、伊那の地の愛の歴史と『君が代』のこころを、この言葉でつないでくれました。
では、この地で利他の経営を行う塚越寛さんの想いは――。
今回に続き、次回は第二部、白駒妃登美さん、塚越寛さん、塚越英弘さん(伊那食品工業代表取締役社長)の対話会についてご紹介します。どうぞお楽しみに。
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