2024年12月12日
文屋が主催する2025年春の「火と水の結リサイタルセミナー」に向け、主役となる現代舞踊家の那須シズノさんはいま、葛飾北斎の芸術性を表現する舞の制作に取り組んでいます。
2024年11月、文屋代表・木下豊は那須さんの住むハワイ島を訪問し、大自然のなかで魂を歓喜させながら舞と向き合う那須さんの日常を体感しました。
(詳細はこちらから:大自然のなかで北斎への祈り舞を制作――那須シズノさんの住むハワイ訪問レポート① )
那須さんは画家である夫・坂口登(すすむ)さんとともに20年以上、ハワイ島のキラウエア火山近くにあるヴォルケーノ村に住居を構えています。自宅から毎日火口近くまで歩き、火の女神ペレに祈りを込めて舞を捧げているのです。
ペレにまつわる伝承や神話は、ハワイにいまも多く残っています。情熱的な激しさをもちながら人々に愛され親しまれている女神ペレは、世界で最も活発な火山をもつハワイ島の象徴的存在といえるでしょう。
今回の旅で木下は那須さんご夫婦とともに、ペレを愛し火山を深く信仰する人々の島・ハワイ島を周遊しました。
ハワイ島には富士山を越える4000m級の山が2つもあります。
そのうちの一つマウナケア山はハワイ島東部に位置し、現在は休火山です。山頂の天候や地盤が安定していることから、世界各国の研究機関が天文台を設置。日本の国立天文台が、大型光学赤外線望遠鏡「すばる望遠鏡」を設置している場所としても知られています。
マウナケア山は標高4207.3mの山頂、雲の上まで車で一気に上ることができる山です。途中のビジターセンターで高山病予防のため、標高ならしをします。那須さんご夫婦を車に乗せて山頂に向かった木下は、太平洋に沈む美しい夕日と出会うことができました。
一方、もう一つのマウナロア山はハワイ島の西部にあり、直近では2022年11月に噴火した活火山です。標高4205m、世界最大の楯状火山であり、緩やかに傾斜する斜面と広大な平原が特徴です。
火の女神ペレが住むといわれているキラウエア火山はこのマウナロアに隣接し、一帯がハワイ火山国立公園として世界遺産に指定されています。
ハワイ島で山々を巡ると、「オヒアレフア」という植物をよく見かけます。火山が噴火した後、溶岩台地という過酷な自然環境に真っ先に根をはり、火のように赤く美しい花を咲かせるハワイの固有種です。
実はこの花には、悲恋の神話があります。
「オヒア」は幹、「レフア」は花という意味を持つこの花は、青年とその恋人の化身といわれます。その昔、火の女神ペレはハンサムな青年オヒアに恋心を抱きますが、オヒアは美しい恋人のレフアに夢中であり、ペレを拒絶。怒ったペレは二人を溶岩に投げ込んでしまいます。
しかしその後、みずからの行いを後悔したペレが、一本の木のなかに二人の命を吹き込みます。たくましい幹に可憐な花を咲かせるオヒアレフアは、再びともに生きることができるようになった二人の姿という物語です。
オヒアレフアには、「花を摘むと雨が降る」という言い伝えもありますが、これは二人が離ればなれになってしまうことで、涙を流してしまうからといわれています。
オヒアレフアの神話は、激情に狂いながらもどこか憎めない、火の女神ペレの神話の一つです。ペレにまつわる数多くの神話のなかでも、現地の人によく知られている物語です。
火の女神ペレと火山を信仰するハワイ島で、いまも活発に活動を続けるキラウエア火山。那須シズノさんはその火口で毎日の舞を奉納するなかで、地球のコアにある炎を全身に感じ、一心不乱に舞を続けてきました。
こうした毎日を送っていた那須さんは2024年春、葛飾北斎ゆかりの地である長野県小布施町の岩松院で、北斎が89歳のときに描いた「八方にらみの鳳凰図」と出会います。
本堂の天井画として祀られる21畳の大きさの超大作は、北斎が神に召される直前の89歳のときに描いた作品。現在72歳の那須さんはこの絵と出会ったとき、体中からわきあがる炎を感じ、止めどもなく流れる涙とともに北斎に捧げる舞の制作を決意しました。
北斎は、いまや世界的に有名な「神奈川沖浪裏」を72歳で描き、その後80代半ばに小布施で怒濤図「男浪」「女浪」(上町祭屋台天井絵)を描いています。前者は現実に見える風景としての浪図ですが、後者は宇宙空間に吸い込まれるような幻想的な浪図です。
北斎に魅せられ、その魂に触れた那須さんが創る舞もまた、いま地球のコアの炎から宇宙の無限の光へと深化しようとしています。
今回のハワイ訪問では、「火と水の結リサイタルセミナー」のプロモーションビデオの撮影も行われました。火の神ペレと火山の島で深化した舞は、間もなく公開される予定です。
どうぞ楽しみにお待ちください。
葛飾北斎ゆかりの地として独自の発展を見せた小布施のまちづくり。その軌跡がわかる書籍『小布施まちづくりのセンス――二人の市村』(磯野謙・著)は文屋より好評発売中です。
↓
【文屋サイト】
https://bunya.shop-pro.jp/?pid=178006972
【Amazon】
ソフトカバー(日本語):https://amzn.to/49MRPiJ
Kindle版(英語):https://www.amazon.com/Insights-Obuse-Collaborative-Development-Small-Town-ebook/dp/B0CSBGMZH5/