2024年12月5日

大自然のなかで北斎への祈り舞を制作――那須シズノさんの住むハワイ訪問レポート①

江戸期の天才絵師・葛飾北斎が72歳のときに描いた神奈川沖浪裏は、いまや世界的に知られる日本文化の代名詞です。実のところ北斎はその後なお画業を追究し続け、最晩年になってからも最高傑作といわれる絵を多く描いています。


北斎が80歳を超えてから何度も長期滞在し、「鳳凰」「怒涛図 男浪・女浪」「龍図」などの秀逸な肉筆画を残した長野県小布施町は、北斎生誕の地である東京都墨田区に並ぶ北斎ゆかりのまちといえます。

小布施を拠点とする文屋は、日本が誇る北斎の芸術性を新しい時代に新しい形で世界へと発信すべく、新規プロジェクトを開始しました。その中心となるのが、ビジュアル、サウンド、ムーブメントの3つのコンポーネントが重なり合う舞台制作です。

この舞台の主役である現代舞踊家・那須シズノさんは、現在72歳。北斎魂の表現者として相応しい、芸術性と経験を重ねてきました。2024年11月、文屋代表・木下豊は、本舞台のプロモーションビデオ、および舞台本番で映写されるビジュアルアートの撮影のため、那須さんが住むハワイを訪れました。

ハワイ最大の島・ハワイ島で芸術の世界に没頭する那須シズノさん

2024年春に那須シズノさんとご縁がつながった文屋は、2025年春に行われる「火と水の結リサイタルセミナー」を主催することが決定。滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールにて北斎画のビジュアルアートとともに、北斎の魂を呼び覚ます那須さんの祈り舞が披露されます。

那須さんはハワイ島と近江・比良の二拠点で生活をしています。キラウエア火山の火口近くで火の神ペレに、そして琵琶湖の水の神さまに祈り舞を捧げているのです。そしていま北斎からインスピレーションを得て、火と水を結ぶ新たな舞の創作に挑戦しています。

那須さんはご主人で画家の坂口登(すすむ)さんとともに、ハワイ諸島最大の島・ハワイ島に20年以上在住。島全体がパワースポットともいえる清々しい気にあふれたこの地で、パートナーと芸術の世界に没頭する那須さんの暮らしは、晩年に小布施で感性を極めた北斎の暮らしと重なるものがあります。

今回のハワイ訪問で木下は、大自然の恵みのなかで魂を歓喜させながら舞と向き合う那須さんの日常を体感しました。

世界で最も活発な火山・キラウエアで捧げる祈り舞

ハワイ語で、「噴き出す」「多く撒き散らす」の意味をもつキラウエアは、世界で最も活発といわれる火山。20世紀中に45回もの噴火を記録しており、溶岩が流れる様子を観察することもできるため、世界中から多くの観光客が集まります。

世界遺産にも指定されているこのキラウエア火山の近くにあるヴォルケーノ村は、観光拠点にもなっている場所です。那須さんご夫妻は20数年前、ニューヨークからこの地に移り住みました。自宅には那須さんのダンススタジオと坂口さんのアトリエがあり、お二人の芸術仲間が日常的に集います。

同じ村に住むカメラマンでビデオ作家のケンさんもその一人であり、パートナーのメリーさんとともに、今回の撮影を担当してくれました。

那須さんは毎日自宅から火口付近まで歩き、炎、稲妻、ダンス、暴力などを司る気性の激しい火の神ペレに、祈り舞を捧げています。断続的に噴火を続けるこの場で踊り続けることで、那須さんの祈りの精神はより深く、自然とつながれてきました。

一度踊り出せば寒さも感じず、憑依したかのように舞う那須さん。北斎の魂と出会うことで自身のダンス人生の集大成となる目標を見つけ、この祈り舞を2025年春以降に表現しつづけるべく、いまその制作に打ち込んでいます。

ハワイでの生活を楽しむ那須シズノさん――「火と水の結」ハワイ公演企画も進行中

一心不乱に舞に向き合うストイックさをもちながら、その一方で那須さんは気さくに関西弁を話し、仲間との交流や生活をとても楽しんでいます。

窓の奥にハワイらしい風景が広がるキッチンに毎日立つ那須さんは、木下の訪問時も得意の創作料理をふるまってくれました。日々の食事は1時間以上の時間をかけ、会話とともに楽しんでいるようです。

ダンス界でも広く交流している那須さんには、ハワイの伝統舞踊であるフラ文化を継承する重要人物との親交もあります。木下は会話のなかで那須さんの交友関係を知り、また北斎芸術の新たな発信地としてのハワイの重要性を実感したことで、ハワイでの舞台公演の構想を得ました。

2025年春に予定している「火と水の結リサイタルセミナー」の公演は、一度きりで終わるものではありません。びわ湖ホールでの公演は出発点であり、この後も北斎アートを世界発信する小布施の顔「北斎館」と協力しながら、世界各地での公演を想定しています。

ハワイ公演を含め、現在もさまざまなイベント企画が進んでいます。決定次第、随時公表してまいりますので、どうぞご期待ください。

そしてハワイレポートは次回以降も続きます。こちらもどうぞお楽しみに。

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