2024年8月29日

北斎アートの無限の可能性――小布施文化は新たな創造のステージへ

まだまだ暑い日が続いていますが、暦の上ではもう秋です。芸術の秋、各地で絵画や美術、音楽などのイベントが目白押しの季節を迎えます。

アートの価値は文化的なものと考える方が多いですが、近年、アートは経済や社会においても有益なものととらえられるようになっています。企業の成長や地域の活性化にアートを活用する事例も少なくありません。

2023年7月、「アートと経済社会について考える研究会」の報告書が、文化庁ではなく経済産業省から発信されました。SDGs時代の新たなイノベーションの可能性を探るため、アートやデザインを起点とした企業価値の向上、地域の文化創造、社会の創造性の向上、そして技術の社会実装が検討課題として挙げられています。

独自のまちづくりで存在感を示す長野県小布施町はまさに、葛飾北斎ゆかりの地としてアートが生み出す価値を追究するまちです。そして小布施を拠点とする文屋はいま、多分野の融合による新たな価値の創造を目指して活動しています。

小布施のまちづくり――「北斎館」を中心とした地域の文化創造

地域の文化創造は、小布施のまちづくりで最も重視されてきました。そしてこのまちづくりにおいて、江戸の天才絵師・葛飾北斎との縁はなくてはならないものです。

北斎は80歳を超えた最晩年に小布施を訪れ、この地に多くの作品を残しました。後の世で世界的な人気を博することになった北斎の貴重な作品の流出を防ぎ、またその調査研究の拠点となることを目指して、1976年に小布施の中心地で開館したのが「北斎館」です。

北斎館建設を主導したのは、当時の小布施町長である市村郁夫さんでした。その息子である市村次夫さん、甥の市村良三さんの二人は1980年代以降、北斎館を中心とする新しい町並みを小布施に創り上げました。

伝統ある歴史と現代の利便性や洗練さを併せもつ小布施には現在、年間120万人が訪れています。小布施は北斎との縁を活かし、独自の文化形成に成功した事例として認識されているといえるでしょう。

地域文化にとどまらない、北斎アートが拓く新たな可能性

間もなく創立50周年を迎える北斎館はいま、その活動を海外にまで広げています。2024年7月にはセインズベリー日本藝術研究所との共同企画にて、イギリス・ノリッジでの北斎作品の展示会を成功させました。

また2025年7月には、フランスのナントにある歴史博物館にて、小布施にある北斎作品を中心に扱う「北斎展」の開催を予定しています。

この海外出展においては、デジタル技術が生み出す新たな美術価値も注目されています。NTT Art Technology社とアルステクネ社は、高いスキャンニング技術とデジタル複製技術によって、北斎作品の本物と見分けがつかないほどの高精細複製画を制作しました。

この「Digital×北斎」の試みは、これらの企業と小布施の協働によって数年前から始まっています。2022年~2023年にNTT東日本の企画により、北斎が描いた「岩松院本堂天井絵鳳凰図」などの高精細複製画の展示会が各地で行われ、盛況にて終了しました。

北斎アートが新たな可能性を開き、アート分野における企業の価値向上やデジタル技術の発展、さらには新たな美術鑑賞のあり方を提示するという社会貢献にもつながっています。

北斎アートの創造性は次のステージへ――伝統芸能×現代の表現者たちが生み出す世界

小布施が発信する北斎アートの創造性は、作品展示からさらに次のステージへの展開を見せています。

その始まりは、世界を舞台に活躍する現代舞踊家・那須シズノさんと北斎の魂との出会いでした。2024年春に初めて小布施を訪れた那須さんは、かねてより鑑賞したいと考えていた「岩松院本堂天井絵鳳凰図」の下で、この絵を描く北斎の魂に触れたといいます。


そして北斎が神に召されるまで進化を続けたように、那須さんも90歳まで20年をかけて、北斎に捧げる火・水・龍の舞を完成させると心に決めました。

那須シズノさん
大倉正之助さん

那須さんは古くから親交のある能楽師 囃子方大鼓の大倉正之助さん(重要無形文化財総合指定保持者)との共演により、2025年春に滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールにて、北斎に捧げる舞のリサイタルを開催することも決めていました。

そしてこのリサイタルを文屋が主催することになったのです。2024年4月より「北斎が見た小布施」プロジェクトを開始していた文屋がお二人と出会ったのは、北斎とあらためて向き合うことにより導かれた運命だったのかもしれません。

関和亮さん
井上悟さん

また先日、このプロジェクトに小布施出身の映像ディレクターである関和亮さんが参加することを快諾してくれました。那須さんとのご縁を結んでくださった文屋の大切な著者である井上悟さんも迎え、「火と水の結リサイタルセミナー」として現在企画が進んでいるびわ湖ホールの公演は、その後国内外での広く開催を続けることになるでしょう。

北斎アートを起点に、伝統芸能と現代舞踊、そしてオーディオ・ビジュアルアートという多分野の表現者たちが織り成す奇跡の舞台の制作が、まさに今秋から開始されます。

日本が誇る北斎、そして人々の感性に強く訴える表現者たちの共演です。ここに新たに経済・社会的価値を生み出されることを、文屋は確信しています。

「火と水の結リサイタルセミナー」の序章として、2024年10月11日(金)に滋賀県の多賀大社 にて、大倉正之助さんと那須シズノさんによる奉納舞が行われます。詳細は下記からご覧ください。
https://e-denen.net/hitomizunoyui/

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