2024年7月18日

北斎の感性に触れる創造的プロジェクト――世界と日本の両軸から

江戸期の人気絵師・葛飾北斎が描いた『富嶽三十六景・神奈川沖浪裏』が新千円札の裏面の図柄に採用されたことを受け、2024年は数々の美術館で北斎展が行われています。

長野県小布施町にある「北斎館」では、90歳で亡くなるまで現役の絵師として画業を究めた北斎の進化をテーマとする特別展示を開催中です。小布施は北斎が最晩年に訪れ、その画業の集大成ともいえる作品を残した地であり、北斎アートを求めて多くの人々が訪れています。

この小布施を拠点とする文屋は北斎館とも協働しながら、北斎の作品や生き方に目を向け、その感性に触れることができる創造的なプロジェクトを展開中です。

今回は世界と日本、その両軸からその内容についてご紹介します。

過去から未来へ――世界に貢献する日本の芸術文化

葛飾北斎は19世紀後半にヨーロッパで起こったジャポニズムの火つけ役となり、印象派を中心とする世界の芸術家たちにも大きな影響を与えました。そしていまもなお、世界から認められる日本の芸術と文化を象徴する人物です。

その北斎の貴重な作品を多く収蔵する北斎館は、海外でも展示会を開催。2024年7月1日~25日までイギリスにて、セインズベリー日本藝術研究所との共催で、北斎の作品展示会を開催しています。

展示会が行われているイギリス東部の街ノリッジは、セインズベリー日本藝術研究所が拠点とする街です。この研究所は日本の芸術文化の専門研究機関であり、下記に語られているような特徴をもっています。

「日本の芸術文化はもちろん、それ自体として人気がありますが、最近では日本が世界に対し芸術文化の面でどのように貢献しているのかなど、学生たちは新しいテーマを次々と見出しています。セインズベリーは幅広い研究分野と学際的なアプローチを提供しています。伝統的な日本研究の分野に強い専門機関は他にもたくさんありますが、ここは誰も手がけていない新たな研究領域に挑戦できる研究所なのです」(セインズベリー日本藝術研究所 サイモン・ケイナー教授)

出典:学際的な日本研究の機会を欧州の若手に提供する、英国・セインズベリー日本藝術研究所 | 国際交流基金50周年記念サイト


新しいテーマ、新たな研究領域とは、日本が誇る芸術文化を過去の遺産としてではなく、未来を創造するものとしてとらえているということでしょう。

この認識は、北斎館はもちろん、北斎ゆかりの地として発展してきた小布施のまちづくりそのものの根幹にあるものです。二者が共同開催する展示会では、最先端技術を使った高精細複製画によって北斎作品を展示するなど、さまざまな新しい試みが行われています。

小布施と共通の感性をもつ街ノリッジ

ノリッジは、中世文化が色濃く残るノスタルジックな雰囲気で英国人にも人気の街。ノリッジ大聖堂をはじめとするたくさんの教会、内部は博物館となっているノリッジ城や古くから続く市場など、ノルマン人千年の歴史を感じることができます。

一方、市場の周りには現代的なショッピングモールが多くあります。そして市庁舎や図書館、公共フォーラムなどがある行政の中心地区には、歴史ある建物とモダンな建物が共存。街全体で、古さと新しさのバランスがとれた心地良い空間を創り上げています。

ノリッジの街のこのようなあり方にはすべて、小布施との共通点が感じられます。

小布施もまた1980年代から始まった町並み修景事業により、伝統と洗練された「いま」が共存するまちです。歴史ある建物に手を加え、外観を残しながらも内装のデザインや機能性は創意工夫がされている――この独自性により、年間120万人が訪れるまちとなりました。


ノリッジで開催されている展示会では、文屋が北斎館との協働により制作したパンフレット「北斎が見た小布施」が配布されています。北斎が訪れた江戸期からいまも小布施に残る建物や風景、文化や建物などを写真と説明文によって紹介するものです。

小布施と共通の感性をもつノリッジ。ここで北斎アートを楽しむ人々ならば、きっとパンフレットをきっかけに小布施を訪れ、北斎の追体験をすることを望んでくれるでしょう。

日本では伝統芸能×現代舞踊で北斎の魂に触れる

文屋は海外だけでなく日本でも、五感で北斎を感じることができるイベントを企画しています。2024年10月11日、滋賀県の多賀大社にて、能楽師 囃子方大倉流大鼓の大倉正之助さん現代舞踊家の那須シズノさんによる奉納の大鼓演奏と舞が行われます。

大倉正之助さん
那須シズノさん

那須さんは2024年春に小布施を訪れ、北斎の作品に向き合いその魂に触れたことで、北斎に捧げる火と水と龍の舞を制作することを心に誓いました。今回の奉納舞は、2025年春に滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールで開催される「火と水の結リサイタルセミナー」の序章といえるものです。

詳細は下記からご覧ください。参加申し込みもしていただけます。
https://e-denen.net/hitomizunoyui/

北斎の感性は、時を超え、国境を超えて広がっています。2024年、ぜひあなたもどこかで北斎の感性に触れてみてはいかがでしょうか。

葛飾北斎ゆかりの地として独自の発展を見せた小布施のまちづくり。その軌跡がわかる書籍『小布施まちづくりのセンス――二人の市村』(磯野謙・著)は文屋より好評発売中です。

【文屋サイト】
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