2024年3月7日
《ゲストハウス小布施》は、小布施の真ん中に江戸時代からある古民家と土蔵を活かした3室のお宿です。
小布施は江戸の人気絵師・葛飾北斎が晩年に何度も長期滞在し、自身の画業の集大成をはかった地。《ゲストハウス小布施》の建物は北斎のアトリエから徒歩すぐの場所にあり、創作の合間に散歩をしている北斎の息づかいが感じられる宿り場です。
このたびリニューアルオープンしたこの《ゲストハウス小布施》を、小布施で生まれ育ち、この地で出版社を営む文屋代表・木下豊が“再び”営むことになりました。
今回はこの《ゲストハウス小布施》の背景にあるストーリーと、受け継いだ文屋の新たな使命についてお伝えしたいと思います。
旧ゲストハウス小布施がオープンしたのは、いまから約30年前の1995年4月のこと。第三セクターのまちづくり会社「ア・ラ・小布施」が、その事業の一環として隣接する歴史的な建物を改装しました。
その前年に同社を立ち上げた市村良三さんは、2005年から4期16年間小布施町長を務め、「協働と交流のまちづくり」を積極的に推進してきた方です。そして1980年代から、老舗栗菓子店「小布施堂」の社長であるいとこの市村次夫さんと一緒に、小布施のまちづくりを主導してきた立役者でもあります。
木下は地元新聞社に勤めていた20代半ば、趣味の写真を通じて10歳年上である良三さんと出会いました。1980年代半ば、「小布施方式」のまちづくりといわれる町並み修景事業がまさに始まろうとするころです。
その後は良三さんや次夫さんとともに新たな小布施文化を発生させるべく、木下もアート展やコンサートなどさまざまなイベント活動を盛り上げるようになります。こうした活動をともにするなかで二人の限りない想像力と創造力に感化され、木下もまた地元の小布施での自身の生き方の土台を築いていきました。
さらに10年の時を経た1994年、木下は良三さんが立ち上げたア・ラ・小布施の出資者の一人となりました。それだけでなく同社の事業部長を勤め、ゲストハウス小布施の現場責任者として、建物の設計や調度品の手配まですべてを担うこととなったのです。
人口11,000人ほどの小さなまちに、いまや年間120万人もの来訪者がある小布施。しかし主要な温泉はなく、かつてはいま以上に宿泊施設は限られていました。そのため昼は小布施で散策、夜は近隣の温泉宿に宿泊するという役割分担が自然とできあがっていました。
この「通過型」の地というあり方を変革したい――30年前すでにそう考えていた良三さんの耳に、ア・ラ・小布施が営む小布施ガイドセンターに隣接する古民家と土蔵の取り壊しという話が舞い込んできました。
そこで良三さんに浮かんだのが、歴史を感じられる建物を快適な宿に改装するというアイデアだったのです。
小布施を訪れる人々に、昼間のにぎわいとは趣が異なる落ち着いた夕方から夜、そして朝靄の清々しい朝を感じていただきたい――。
旧ゲストハウス小布施はまさに、小布施を「滞在型」の地に変える役割を担いました。木下は初代支配人として、小布施の新しい宿り場に多くのお客さまをお迎えすることに成功します。
その後しばらくして木下はア・ラ・小布施を離れ、出版社という異なる事業によって小布施のあり方を広く発信することになりました。しかし時を経た2023年、遠くから見守っていたこのゲストハウスに再びかかわることになったのです。
2022年、建物内部の劣化などを理由にア・ラ・小布施の手から離れた《ゲストハウス小布施》は、オーナーの手によってリニューアル工事が行われました。そしてオーナーが経営者として再び白羽の矢を立てたのが、初代支配人である木下だったのです。
それは若き日の木下をまちづくりに引き寄せた市村良三さんが、惜しくも逝去された2週間後、2023年7月のことです。まさに運命的な出来事でした。
小布施に宿は増えましたが、まだ十分といえる数ではありません。「これは良三さんが再び授けてくれた縁に違いない」と感じるものの、いまは文屋の事業で手一杯の木下は申し出に即応することはできませんでした。
ところがさらに運命に導かれるように、19年間小布施から離れていた木下の長女が帰郷し、故郷の小布施でゲストハウスを営むことを望んでくれたのです。
小布施を「滞在型」の地にするという使命にもう一度向き合うべく、木下は長女とともに《ゲストハウス小布施》を再び営むことになりました。
文屋を創業して25年、木下は書籍出版だけでなくセミナー開催などのさまざまなサービスを通して、全国、そして世界へと発信してきました。旧ゲストハウスがオープンした当時とは異なり、文屋にはいま、小布施を新たな文化の発信源にするアイデアとそれを実行する力があります。
《ゲストハウス小布施》を再び営むことになった文屋は、この春から小布施を「滞在型」の地にするための新たなプロジェクトに挑みます。
次回はそのことに触れたいと思います。
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