小布施のまちづくりに見るグリーンインフラとは―自然との向き合い方にも“らしさ”を

自然を「生かす」ということは、まちづくりにおける重要な視点の一つです。その地域に豊かな自然があれば、工夫次第で生活や観光の貴重な資源となります。

一方、自然は地震や台風などの災害をもたらす脅威の存在にも。自然と「いかに共生するか」ということも、まちづくりの欠かせない要素です。

近年では、このようにさまざまな「顔」をもつ自然といかに向き合うかについて、「グリーンインフラ」という考え方があります。自然環境を機能的に活用しつつ、暮らしやすさや防災、減災につなげるインフラ整備のあり方です。

いま地域に根ざしたグリーンインフラとは何かを考えるうえで、長野県小布施町の取り組みはとても興味深い事例です。

文屋は2023年12月に、『小布施まちづくりのセンス――二人の市村』（磯野謙・著）を出版しました。

前小布施町長の市村良三さんと、老舗栗菓子店「小布施堂」社長の市村次夫さん――いとこ同士の「二人の市村」さんが先導してきた小布施のまちづくり。本書はその40年にわたるプロセスがわかる一冊です。

独自のまちづくりで全国から注目される小布施には、グリーンインフラを考えるうえでも“らしさ”があふれています。

持続可能なエネルギー循環を自給自足で　

「町並み修景事業」による景観整備、そして「協働と交流」によるアイデア創発と、まちづくりのハード・ソフト面で独自性を築いてきた良三さん、次夫さんが次に取り組んだのが「インフラ」でした。

そのきっかけは、2011年の東日本大震災です。地震による被害はもちろん、福島第一原子力発電所の事故に大きな衝撃を受けた人々も多く、環境やエネルギーへの意識が高まりました。

二人とこのおもいを共有しているのが、本書の著者である磯野謙さんです。磯野さんは小布施の隣の高山村出身で、やはり震災をきっかけに独立して自然エネルギー事業を立ち上げました。その自然電力株式会社の最初の仕事が、2012年に始まった「小布施エネルギー会議」を仕切ることでした。

行政主導ではなく、専門家を招いた住民参加の対話主導こそ、小布施らしいインフラ模索への道筋。自然エネルギーに取り組む企業、研究者、NPO、建築家と住民たちが小布施で利用できる自然エネルギーとは何かを共に考え、取り組みの方向性が明確化されました。

その結果、2018年には小布施の南側を流れる松川にて、自然電力初の小水力発電所が、稼働。ここで発電されたエネルギーの地域販売を目指し、小布施町、自然電力、地元でケーブルテレビ事業を展開するGoolight の3 社が共同出資して、「ながの電力株式会社」も立ち上がりました。

目指すはあくまでも、持続可能なエネルギー循環。小水力発電所によって、現時点では小布施町内の10％ほどのエネルギーが自給できています。周辺の自治体と協力しながら、今後は北信濃で100％のエネルギーを自給自足する道を模索していきます。

災害に強く、環境に優しい環境災害先進都市へ　

2019年の令和元年東日本台風は、小布施自慢のフルーツをはじめ1億円以上の被害をもたらしました。この台風被害は、小布施の防災意識をさらに高めるきっかけとなります。

当時、良三さんが町長を務めていた小布施町では、水害ハザードマップを更新。防災訓練のあり方や水害時の避難所指定の見直しに加え、自治会と協力して住民一人一人が災害避難を自分ごととして考えられるように「わが家の避難計画」の普及啓発に努めました。

災害対策を重々しくしすぎず、あくまでも日常生活に落とし込む工夫も小布施らしさの一つ。「平時を楽しみ、有事に備える」というコンセプトの下、農業と防災をテーマにしたアミューズメントパーク「nuovo」が立ち上がりました。

ここではパワーショベルでの掘削や四輪バギーでの荒地走行など、楽しみながら防災を学べるしかけが準備されています。災害ボランティアを想定した重機講習や災害支援なども行われ、新しい災害対策のアプローチとして全国的にも注目されています。

2020年、良三さんは地球温暖化対策として、持続可能なエネルギーの推進や温室効果ガスの削減などに取り組む「世界首長誓約」に署名しました。

小布施は災害に強く、環境にやさしい環境防災先進都市へと転換を図り、専門家と連携しながら低炭素社会の実現や廃棄物の削減・再利用の促進のための調査も進められています。

さまざまな人々が立場を超えて対話し、持続可能な地域開発に挑む小布施のグリーンインフラ。さてあなたの町では、自然との向き合い方にどう“らしさ”を生かしますか。