2024年2月1日

小布施に学ぶまちづくりのヒント⑤―慣習を打ち破り、客人を大切にし、人が輝く瞬間を応援する

多様な人々がかかわるまちづくり。そこでこれまでにない新たな価値をつくるためには、「人」のもつ可能性を信じることがとても大切です。入念につくられた事前計画も、活動を通して創発されるアイデアには到底及ばない――それはしばしば起こりうることです。

長野県小布施町は、この「人」という資源を最大限に生かした独自性の高いまちづくりで知られており、年間120万人もの来訪者を呼び寄せています。

文屋は2023年12月に、『小布施まちづくりのセンス――二人の市村』(磯野謙・著)を出版しました。

本書の核となる「まちづくりのセンスを磨く19ヒント」は、小布施のまちづくりを先導してきた「二人の市村」――いとこ同士の市村良三さんと市村次夫さんの対話から導き出されたものです。このブログでは数回にわたり、その内容をお伝えしています。

13. 業界の慣習に従わない 

良三さんと次夫さんは、1980年代に老舗栗菓子店「小布施堂」を継承しました。この小布施堂の経営戦略こそ、二人にとっての小布施のまちづくりの起点です。小布施堂を軸に、上質な食を提供する小布施の新しい文化を発生させていきます。

その実践において、二人は業界の慣習にとらわれない新しい挑戦をしました。例えば小布施堂に新しくレストランを開設した際の、メニューと料理人の育成をセットにした独自のスタイルです。

まず料理研究家の土井善晴さんに、メニューやサービスの監修を依頼しました。そしてプロの料理人は雇わず、料理の素人だった社員を善晴さんの父・土井勝さんの料理学校で修業させ、ゼロから鍛えます。さらには原価率3割以下といわれる外食産業において4割以上の原価をかけ、種類も少なくして経験の浅い料理人でも高い品質を目指せるようにしました。

利益を上げることより小布施堂のファンを増やし、小布施に足を運んでもらうことを目的にしたからこそ実現できた戦略ともいえます。実際に赤字が長く続くこともあっても、二人は未来を見据えた挑戦を優先しました。

時を経て成果は実り、小布施堂が業績を伸ばすだけでなく、小布施に意識と技のレベルの高い料理人が集まるようになりました。慣習からの逸脱が、洗練された食文化の発信源となったのです。

14. 客人をもてなし、交流する

小布施は、江戸末期の人気画家・葛飾北斎が晩年に長期滞在した町としても知られています。市村家は、この北斎を手厚くもてなした高井鴻山の家系です。だからこそ外から来る客人をもてなし、知的な刺激を受け、新しい情報を吸収するという伝統が脈々と受け継がれてきました。

2005年から2021年まで4期小布施町長を務めた市村良三さんは、町長として「協働と交流のまちづくり」を指針に掲げています。そして町内外の人たちを家に招いて、一人一人の話を熱心に聞き、交流してきました。

交流によって信頼関係が育まれ、そこから協働が生まれる――この地で生きている人だけではなく、多くの人々関わることで新しい発想がもたらされると良三さんは考えていたのです。

そして鴻山だけでなく北斎を迎えた小布施人(びと)たちにとって、訪れ人とは「音連れ人」。外の人はみんな峠の向こう側、外の音をもたらしてくれる貴重な存在です。来訪者=まれ人(客人)は全員、北斎と見立てられます。

小布施の交流文化、そこから生まれるさまざまなアイデアの根底には、小布施人たちがその心に受け継いでいる「まれ人みな北斎論」があるのでしょう。

15. 人が輝く瞬間を応援する

良三さんと次夫さんがまちづくりへの取り組みを始めたのは、まだ30代のころでした。若かった自分たちがいろいろなことに挑戦できたのも、周囲の人々の応援や理解があってのことと二人は自覚しています。

こうした経験を経て、どんなに小さなことでも自ら考えて企画し、推進するそのプロセスが人を大きく成長させる、と実感しました。

だからこそ、誰の人生にもきっとある「輝く瞬間」を周囲の人が見逃さず、応援してその夢や希望の実現のために力を尽くすこと。どの人にも順番に光を当て、主役になってもらうことが、二人にとっての「協働の姿」となったのです。

協力と協働の違いは、人に力を貸すのか、それとも自身が当事者になるのかということ。二人が目指したまちづくりのあり方は、それぞれが得意なことや思い入れのあることを実現し、全員が主体的な当事者になるということでした。

いま小布施では、若者を中心にたくさんの人々が自分のアイデアを具現化しています。

有名なリゾート施設でも観光名所でもない、「人」が魅力をつくるまちづくり。そのヒントが、小布施にはたくさんあります。

本書を開くあなたが、まちづくりでこれまで以上に「人」の可能性を広げられることを、心から願っています。

『小布施まちづくりのセンス――二人の市村』(税込2,200円)は、下記よりご購入いただけます。

【文屋サイト】
https://bunya.shop-pro.jp/?pid=178006972&fbclid=IwAR38iqc99kfcEzJ9qlTWy3ryOIwkL8HQLKSZ6LN6x0Lh4Fltlo1D8Kmlbgw

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