2024年1月25日
近年、「観光まちづくり」という言葉を耳にするようになりました。地域活性化の基軸に観光を置く考え方ですが、まちづくり活動と地域外から人を呼び込む活動をうまく両立させるためには、さまざまな工夫が必要です。
長野県小布施町のまちづくりでは、歴史や文化を大切にしながら、住民が楽しくて居心地がいい本物の空間をつくるためのさまざまな知恵が生まれました。そしていま、小布施には年間120万人もの人々が訪れています。
最初から人を集めることをまちづくりの目的とするのではなく、まちづくりの結果として人が集まってくる――小布施のまちづくりには、「観光まちづくり」で求められる大切な要素があります。
文屋は2023年12月に、『小布施まちづくりのセンス――二人の市村』(磯野謙・著)を出版しました。
本書の主人公は、小布施のまちづくりを先導してきた前小布施町長の市村良三さんと、老舗栗菓子店「小布施堂」社長の市村次夫さん。小布施で生まれ育ったいとこ同士の「二人の市村」による、40年以上のまちづくりの軌跡がここに綴られています。
このブログでは数回に分けて、二人の対談から導き出された「まちづくりのセンスを磨く19ヒント」をご紹介しています。
良三さんと次夫さんが1980年代に始めた町並み修景事業は、住民たちの快適な暮らしのためのまちづくりのアイデアの実践であり、当時まだ前例がなく「小布施方式」と呼ばれていました。
例えば建物の外観は伝統あるものにしても、内装には最新の空調技術を使って快適に過ごせるようにするなど、景観に配慮しながらも暮らす人々の日常を上質にすることにこだわっています。
民間主導で行われた町並み修景事業は、町行政もかかわっていたものの、あくまでも応分の必要な費用を分担するだけで、補助金などは一切受けませんでした。それは、全国から評価されるためには前例にとらわれてはならない、という理由からです。
行政から補助金を受けられるということは、日本において前例があることだと考えたのです。
良三さんは2005年に小布施町長に就任してからも、企業や個人からの新しい提案に積極的に耳を傾けました。その一つの試みとして「小布施若者会議」を開き、未来を担う若者たちに地域の課題だけでなく、日本社会のこれからのあり方を議論することを促したのです。
前例にとらわれず、地域に根ざしながらも大きく視野を広げていった小布施のまちづくりは、全国から高く評価されるようになりました。
多様な人々が関わるまちづくりといえば、入念なマスタープラン(基本的な構想計画)を共有することが通常のやり方でしょう。ところが小布施のまちづくりにおいて、良三さんと次夫さんはマスタープランをつくりませんでした。
代わりに、話し合いを進めるなかでデザイナーに絵を描いてもらって共有し、またキャッチフレーズのように自分たちで言葉を工夫しました。
ちなみに1980年代に雑誌に掲載された「10年後」の小布施堂界隈は、いまほぼその時のイメージ通りになっています。また現在はまちづくりや建築などの分野で標準語となっている「町並み修景」という言葉も、二人が自分たちのアイデアを表す言葉として紡ぎ出したものでした。
二人のまちづくりのビジョンは形式ばった文章で理屈を説明するのではなく、絵や言葉で感覚的に理解されるものです。こうして表されたビジョンは時を経たいまも、小布施の人々に共有されています。
良三さんと次夫さんが描いたまちづくりのビジョンの原点は、自分たちが住んでいて楽しい町というものでした。年をとっても車を使わず町の中を歩き回れること、お茶ができる場所が近くにあること。「それなら楽しいだろうな」と思える身近なイメージを膨らませて、まちづくりをしてきたのです。
住民が楽しんで豊かに暮らしている町は、毎日が輝いていて日常が美しい。こうした町だからこそ、振り返ってみてみれば人がたくさん集まってくる。
二人が考える観光とはまちづくりの目的ではありません。住民が自分たちの町の歴史や文化に誇りをもち、その地の資源や生活スタイルを生かしたまちづくりの「結果」として人が集まることです。
目的観光から結果観光へ。本物の観光とは、生活文化の交換である――。
小布施では訪れる人々を「観光客」ではなく「来訪者」と呼んでいます。一見さんではない来訪者と住民の交流が、さらに新しい価値観を生み出すと考えているからです。
もしあなたが「観光まちづくり」に行き詰まっているのなら、本書は「観光」を問い直すきっかけとなり、きっと視野を広げるものになるはずです。
ぜひお手に取ってご覧ください。
『小布施まちづくりのセンス――二人の市村』(税込2,200円)は、下記よりご購入いただけます。
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