2023年12月27日

小布施に学ぶまちづくりのヒント①―地域とともに生き、当たり前を問い直し、対話を重ねる

地域の魅力を引き出し、人々を呼び寄せるまちをつくることは、人口減少に瀕する多くの地方都市にとっての課題となっています。しかし、特性が異なるそれぞれの地域のまちづくりに決まった手順はありません。

まず何を意識してどう進めていけばいいのか――。迷う人も少なくないでしょう。

1980年代に民間主導でまちづくりを始めた長野県小布施町は、いまでは毎年人口の100倍もの来訪者がある町となっています。実は小布施には、珍しい特産物や大型リゾート施設など、本質的に観光の「目玉」となるものがありません。

だからこそ小布施のまちづくりのプロセスのなかには、ほかの地域でも実践できることがたくさんあるように思えます。

文屋は2023年12月19日に、『小布施まちづくりのセンス――二人の市村』(磯野謙・著)を出版しました。

小布施のまちづくりは、この町で生まれ育ったいとこ同士の市村良三さんと市村次夫さんが先導してきたことでも知られています。本書では、二人の対話から紡ぎ出されたまちづくりのセンスを磨く19のヒントを紹介しています。

今回から数回に分けて、その内容に触れていきましょう。

1.持てる力のすべてを地域に注ぐ

良三さんと次夫さんが継承した小布施の老舗栗菓子店「小布施堂」は当時、小布施で競合する老舗栗菓子店のなかで三番手にいました。メディアでは「栗菓子戦争」とまで表された激しい競争のなかで、二人がとった戦略。それが小布施のまちづくりの起点となっています。

その戦略とは、むしろ「競争しない」こと。町外への店舗展開を積極的におこなっていた他店とは異なり、小布施堂は本拠地である小布施に持てる力をすべて注いだのです。

二人は町並み修景によって、小布施に美しい景観という新しい価値を築きます。そして栗菓子の工場すらも町の景観に寄与する洗練された建物に仕上げ、訪れる人々が美術館と見間違うほどのものにしました。

さらには文化人や芸術家、経済人たちとのネットワークを深め、小布施の魅力をより高めるために自分たちのセンスを磨いていきます。

地域密着を超えた地域と運命共同体となって小布施を盛り上げる、この二人の大きな覚悟は、小布施堂を中心とした小布施のまちづくりを成功に導く大きな力になったはずです。

2.アンチテーゼから考える

それまで当たり前とされていたことを問い直し、まちづくりに新たな価値観を築いたことも、二人のまちづくりを特徴づけるものです。

例えば高度経済成長期を経た当時の日本では、住宅地帯、工業地帯、商業地帯のように区域を分けるゾーニングが都市計画の基本でした。小布施堂を継ぐ前、このような秩序立った地域で暮らしていた次夫さんは、まちづくりにそのアンチテーゼを持ち込みます。

それは住宅、工場、商店などの多様な機能を持つ場所が混在していることに価値を見出すこと――人々の話し声や機械が動く音、匂いや「猥雑(わいざつ)さ」がむしろ、土地の魅力を演出するものと考えたのです。実際に小布施はいま、駅周辺の徒歩圏内、もしくは周遊バスの運行圏内に、生活や観光などの多くの機能が混在しています。

小布施のまちづくりを象徴する町並み修景という考え方も、ただ古い町並みをそのまま残す、もしくは効率化を目的とした高機能の建物を新たに建設するというありふれた二極化に対するアンチテーゼでした。

どちらにも偏らない、歴史を大切にしながらもそれに調和する暮らしやすさを追求することが、町並み修景の基本となっています。

3.合意形成のため、対話を重ねる

市村良三さんは、2004年に小布施町長選に出馬しました。その選挙期間中に、知り尽くしているはずの小布施の未知の姿に出会います。

27に分かれている小布施の自治体には、それぞれに独自のお祭りや気風がありました。

その歴史や文化の多様性を尊重するため、良三さんは町長に選出されてから「町政懇談会」を毎年開き、自治体ごとに住民を集めて対話する機会を設けています。

しかし「住民と対話する」ということは、口で言うほど簡単なことではありません。飲み会などの場で罵声を浴びせられることも。それでも良三さんは、「本音を言ってもらったほうがいい」とさまざまな場に積極的に参加しました。

「大切なのは熱量と頻度」――。

賛成か反対か、その二元論を越えてとにかく一人ひとりの話を聞くことに価値を置いた良三さんは、「2,000人の大人がいるなら10人ずつ集めて200回集会をやればいい」と話します。すぐに答えを出すことより、とことん話して時間をかけ、一つの意思をつくり上げることを大切にしてきたのです。

小布施のまちづくは日々の生活とかけ離れたものではなく、その延長線上にあります。地域とともに生き、当たり前を問い直し、対話を重ねる――ほんの小さなハレ、美日常といえる時間と空間のなかに生まれた心地よさこそ、小布施の最大の魅力です。

難しいことではなく、日常のなかで意識できるヒントがたくさん詰まった本書を開き、あなたもまちづくりのセンスを磨いてみてください。

『小布施まちづくりのセンス――二人の市村』(税込2,200円)は、下記よりご購入いただけます。

【文屋サイト】
https://bunya.shop-pro.jp/?pid=178006972&fbclid=IwAR38iqc99kfcEzJ9qlTWy3ryOIwkL8HQLKSZ6LN6x0Lh4Fltlo1D8Kmlbgw

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