2024年10月24日

北斎アートの新たな可能性――伝統と革新を追求する大倉正之助さんの挑戦

去る2024年9月25日、長野県小布施町の公民館講堂にて、大鼓(おおつづみ)と舞のワークショップが行われました。

大鼓の演奏、そして大鼓の体験ワークショップの指導は、能楽師 囃子方大倉流大鼓の大倉正之助さん(重要無形文化財総合認定保持者)によるものです。大倉さんは演奏活動を活発に行うかたわら、各地の小中学校などを訪問して大鼓の指導もしています。


小布施を拠点とする文屋は、2024年春より展開している北斎プロジェクトを通して大倉さんと出会いました。このプロジェクトでは、江戸の浮世絵師・葛飾北斎が多くの作品を残した小布施に新たな北斎文化を創造すべく、多分野の人々が関わりながら新しい挑戦をしています。


大倉さんは日本の伝統芸能である能楽の世界に生き、そのジャンルを超えた融合にも挑み続ける表現者であり、この新たな挑戦の立役者の一人です。

伝統と革新によって北斎の新たな可能性を切り拓く――現代舞踊家・那須シズノさんと大倉正之助さんの共演

小布施は葛飾北斎が最晩年に訪れ、長期滞在して創作活動に励んだまちとして知られています。1976年に開館した「北斎館」は北斎の作品展示をするだけでなく、国内の北斎研究の重要拠点になりました。そして時を経たいま、小布施が追求する北斎文化は新たな可能性を切り拓こうとしています。

その一つとして北斎館は今夏、デジタル技術を使用した高精細複製画によって、北斎作品を海外にて展示しました。そして文屋は北斎の世界観を二次元から三次元へ広げ、目で鑑賞してもらうだけでなくサウンド、パフォーマンスにより、五感で人々の感性を刺激する舞台制作を行います。


この企画は、現代舞踊家である那須シズノさんのインスピレーションから始まったものです。2024年春、小布施を初めて訪問した那須さんは、岩松院で北斎の「八方にらみ鳳凰図」を鑑賞。大きな感動とともに、自身もまた北斎と同じ90歳まで進化を続け、北斎に捧げる舞を完成させると心に決めました。

そして那須さんと古くからご縁があり、この大きな志に共感したのが大倉正之助さんです。これまで長く共演を重ねてきたお二人の舞台は、深い精神をもつ表現者同士の魂のぶつかり合いであり、ここに北斎という大きな存在が加わることになります。

日本の伝統芸能を受け継ぎながらも、常に革新的な挑戦を続けてきた大倉さんが那須さんとともに創り上げる北斎の新しい世界とは、どのようなものになるのでしょうか。

2024年9月、舞台制作に向けた会合が創作の糧に

大倉さんと那須さんはこれまで、全国の神社仏閣での舞の奉納や、会場での舞台パフォーマンスにて共演してきました。そしてこの北斎に捧げる舞は2025年春、滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールで行われます。

「火と水の結リサイタルセミナー」と題されたこの舞台制作に向け、2024年9月に大倉さんと那須さん、そしてこのセミナーに講演者として参加する井上悟さん(著書『楽しむために生まれてきた』が文屋より好評発売中)が小布施で合流しました。


冒頭で記した大鼓と舞のワークショップは、この会合の期間中に行われたものです。ワークショップの参加者は小学生が10人、20代から80代までの大人10人の合計20人。窓からは北信五岳が一望できる素晴らしい会場で、大倉さんと那須さんの即興の共演の後、参加者全員で大鼓の打ち方を練習しました。

最後には大倉さんの名指導で上達した子どもたちを含め、全員の演奏に合わせて那須さんが再度、舞を披露してくれたのです。

小布施の会合ではこのほかにも、大倉さん、那須さん、井上さんの三人が多くの時間を共有しました。北斎館、岩松院で北斎の肉筆の大作を鑑賞して感想、感動を分かち合い、北斎が見た小布施のまちで語り、食べ、歩いた体験――これらはすべて、「火と水の結リサイタルセミナー」の初演に向けた創作の糧となることでしょう。

2024年10月、多賀大社能舞台奉納後の大倉さんの語り

9月の会合に続き、「火と水の結リサイタルセミナー」の序章ともいえる大倉さんの大鼓、那須さんの舞の奉納式が、去る10月11日に滋賀県多賀大社の能舞台にて行われました。


こちらの内容については次回詳しくお伝えしますが、大倉さんは奉納式後の直会(なおらい)と呼ばれる懇親会でのご挨拶で、とても興味深いお話をされています。

「能」は「農」に通じるというインスピレーションがあります。何より能舞台って、呼びかけるんですよね。「おおっ、のう~っ」って(笑)。それで19歳のときくらいに自然農法の農家に住み込みました。大自然を相手にする営み、衣食住すべてに関係している、この「能」と「農」には縁があります。(大倉正之助さん)

若き日の体験を胸に、伝統芸能の世界で躍進してきた大倉さんですが、近年では能舞台に自然の恵みが生かされていないと感じているとのこと。そこで国産麻を使い、現代の化学染色ではなく茜染色による製法による鼓を復元し、12年一巡りで全国の神社仏閣での能楽奉納を始めました。

大型バイクで全国を駆け巡り、伝統と革新を追求する大倉さんの今後の活動からも目が離せません。そして何より、旧知の間柄である那須さんとともに創る新たな舞台での挑戦に、どうぞご期待ください。

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