2025年6月4日
初夏の折、文屋が主催する講話と舞の祝祭『火と水の結 光』(2025年5月10日開催、滋賀県立びわ湖ホール)は盛況のうちに幕を閉じました。本舞台の開催は、信州小布施に根を張る文屋が世界に向けて発信する「美日常プロジェクト」の新たな出発点となりました。
毎日の暮らしを寿(ことほ)ぐおかげさまの思想である「美日常」は、年間約120万人もの人々が訪れる小布施の人々が養っている独自の生活文化です。他の多くの観光地にある「非日常」とは異なる、たおやかで幸福感に満ちた美しい日常がここにはあります。
文屋は2024年春、この地に深い縁のある江戸期の浮世絵師・葛飾北斎にあらためて向き合うことで、美日常の思想を深化させ、新たなプロジェクトを開始しました。
そして今後より一層、美日常の発信力を高めるため、本ブログカテゴリーも「小布施、美日常へのいざない」として再始動いたします。
美日常を体現する小布施において、北斎は過去の人物ではありません。いまを生きる人々の奥底にある光の存在を指し示すため、この地にその魂を宿しています。
北斎は最晩年、小布施の豪農商である高井鴻山(こうざん)に導かれ、この地を訪れて人生の集大成となる数点の肉筆画を残しました。小布施のまちの発展は、これらの作品を所蔵し、展示する北斎館の開館が起点となっています。
北斎館が開館して間もなく50年になるいま、文屋が美日常の考え方を深化させたのは、北斎作品に鑑賞の対象としての価値を超えるものを見出したからです。小布施で描いた肉筆画に反映される北斎の感性や生き方は大きなエネルギーとなり、観る人の人生を変えるほどの創造的な力があります。
その最も象徴的な絵は、『上町祭屋台天井絵 怒濤図 男浪・女浪』です。
男浪、女浪と名づけられた一対の絵に描かれているのは、北斎の代名詞ともいわれる『神奈川沖浪裏』に描かれる風景画の浪とはまったく異なるものです。宇宙空間のような奥行きがあり、まるで人の心の深淵を描いているかのようです。
この浪図こそ、観る人の心の奥底にある光の存在を知る手がかりになる――美日常の考え方を軸にすることで、文屋はこの絵に新たな解釈を加えることができると確信しました。
北斎が江戸から250キロも離れた小布施に何度も足を運んでいた当時、江戸は財政再建のための倹約や統制、また風紀是正のための改革が行われていました。絵画や書物などによる自由な表現が制限されていた時期です。
すでに80歳を超えていた北斎ですが、「70歳までの絵は取るに足らない」と語るほど、画業追究への凄みを増していました。250キロという距離をものともせず、小布施で自由に描けることに歓びを感じていた北斎がみずからの魂の叫びに応えて描いた作品には、あらゆる制約から解き放たれた、絵の神髄が表れています。
上町祭屋台の天井絵に描かれた浪図は、荒れ狂う浪の波濤が描かれていることから「怒濤図」と表されてきました。しかし、北斎が極めた世界観を表現したこの一対の作品に「怒」という文字はふさわしいのか――。むしろ意識より深くにある魂の躍動を表現していると考えた私たちは、この絵を新たに「躍濤図」と呼ぶことにしました。
そして、森羅万象の真理を描いた作品という意味を込めて、英語では「The Cosmic Waves」と名づけました。
周囲の環境や社会の評価といった他人軸ではなく、自分自身がもって生まれた魂の望みを叶えて自分軸で生きること。いつの時代においても普遍の幸せはそこにあり、小布施に息づく美日常の軸もまたここにあります。
躍動する波の形と動きを通して、普遍的な真理を描いた「躍涛図:The Cosmic Waves」こそ、美日常を体現した絵図であり、いまを生きる人々が自分を縛る幾重もの鎖を引き剥がしてくれるものです。
躍涛図が男浪と女浪という一対をなしていることも、美日常という創造的な生き方を理解する重要なヒントです。これは古代中国より伝わる思想としての陰陽二元論も、深く関連しています。
陰陽とは相反する2つの要素であるものの、そもそもここに「良い・悪い」という価値判断は伴いません。森羅万象あらゆる自然物にある陰陽の二側面は、その調和によってさまざまな秩序が保たれていることを示しています。
人の営みも本来は同じこと。しかし私たちは、日常的に自己や他者、周りの環境について「良い・悪い」という評価をして生きています。自分の内側にしかない真の幸せ、美日常の生き方から遠ざけているのは、こうした価値判断をしてしまう自分自身なのです。
陰陽の調和を崩すのは、価値判断によって悪い状態から良い状態に変化しなければならないという人々の焦りや苛立ちであり、これらが身体の不調や人間関係の歪み、ひいては国家レベルの争いを生み出します。陰と陽は本来、平面的にとらえて判断するものではありません。両者を俯瞰する高い位置、深い位置から眺めて「どちらもOK」と受け止めるものなのです。
北斎が描いた男浪・女浪の一対は観る人の心を照らし、日常の価値判断のありようを教えてくれるものです。陰陽とは比較するものではなく、いまの自分のありようを知るための基準なのです。
私たちにとって当たり前に存在する「日常」と、それとは相反する「非日常」もまた、陰陽の側面の一つです。「たいくつな日常(陰)」と「たいへんな非日常(陽)」、その中間領域である「たおやかな美日常」へと、わたしたちを導いてくれます。
いま、あなたの魂の輝きを曇らせてしまうすべてのものを取り払い、真の幸せへとたどりつくために、美日常とは何かを知り、魂のままに生きてみませんか。
本当の奇跡はあなたの中にある――そのことを一人でも多くの人に伝えるため、文屋はこれからさまざまな発信してまいります。
※『躍涛図:The Cosmic Waves』と向き合い、世界中の仲間たちと語り合う6日間で、魂のままに輝くあなたの人生の扉が開きます。美日常北斎リトリートのお申し込みはこちらから