2024年12月26日

現代舞踊家・那須シズノさんが北斎アートの創造性に挑戦――祈り舞を支える弥勒瞑想(みろくめいそう)とは

20年ぶりに町長選が行われた長野県小布施町。36歳の大宮透さんが当選し、県内で最年少の現職市町村長として話題になっています。

大宮さんは東京大学大学院で都市計画を学んでいた2012年、「小布施若者会議」の立ち上げに参画しました。小布施のまちづくりの歴史と可能性に魅力を感じ、翌年に移住して、さらに2020年には町役場に入庁。今後は町長として、住民とともに地域力をより高めていく意欲を語っています。

文屋が拠点とするこの小布施町は、江戸期を生きた稀代の絵師・葛飾北斎が最晩年に何度も訪れ、画業の集大成となる肉筆画の傑作を残した地です。北斎作品を所蔵する「北斎館」を中心に、北斎ゆかりのまちとして独自の発展を続けてきました。

「小布施から世界へ」を信条とする文屋はいま、北斎アートを「鑑賞」から「創造」へと進化させる新たな芸術表現に挑戦し、2025年春に滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールで開催される舞台制作を進めています。

現代舞踊家・那須シズノさんが北斎アートの創造性に挑戦

北斎晩年の傑作を多く所蔵する小布施。そのうちの一つ、北斎が死の前年に描いた畳21畳分の超大作「八方にらみの鳳凰図」は、雁田山の麓にある岩松院本堂の天井画として残されています。1年もの時間をかけて描かれたこの傑作は、約170年間塗り替えられず、当時のままの状態です。

2024年春、小布施を訪れてこの絵を見上げた現代舞踊家の那須シズノさんは、そこで一心不乱に絵を描く北斎の魂と出会ったといいます。その魂をみずからの祈り舞で表現することを決意し、即座にびわ湖ホールの会場を予約しました。

共通の知人を介してご縁を結んだ文屋は、那須さんの決意を受け、北斎のビジュアルアートと現代舞踊がコラボレーションする「火と水の結リサイタルセミナー」の制作を決定。那須さんによる独自の旋回舞(スパイラルビジョン)によって、北斎の深い芸術性を表現する舞台をともに創り上げることとなりました。

会場では、那須さんが約8年かけて創作した弥勒瞑想(みろくめいそう)のワークショップも予定しています。弥勒瞑想は、那須さんが舞の道を探究し、技を極め精神を調えるための瞑想法です。

「弥勒瞑想」(みろくめいそう)の誕生秘話

那須シズノさんは幼いころからバレエを始めてその頭角をあらわし、19歳でプロのダンサーに。その後25歳で独立し、スタジオ経営と舞台作品の制作を担うまでになります。しかし、あまりにも多忙な生活のなかで感じたのは、「本当の意味で踊っていない」ということでした。

そして35歳ですべてを整理し、新潟の山奥の廃村での暮らしを選びます。これまでの名声を捨て、食べ物すらままならない雪国で極限の生活を送るなか、那須さんは自然の本当の厳しさと美しさを体感することで、「生きる」ということに向き合いました。

この生活のなかで生まれたのが「弥勒瞑想」です。

村の近くにある蓮池には、3000年前の種子から発芽し、大輪の花を咲かせる姿を見ることができます。那須さんは毎日、夜明けとともにかすかに音を立てて見事に咲く蓮の花を見にいったそうです。

その姿を真似、手でつぼみをつくって開花させる動きを繰り返す――。帰宅してからも目の前に花があることを想像し、同化することで、まるで弥勒菩薩のように心が穏やかになるのを感じたといいます。

純粋芸術としての祈り舞を支える弥勒瞑想

那須さんはまだ20歳に満たないころ、芸能界で仕事をしていた際に幾度となく、京都市左京区太秦の広隆寺に安置された弥勒菩薩像を訪れました。穏やかな微笑みとしなやかな手の美しい姿を前に涙を流し、長らく憧れを抱き続けていたそうです。

弥勒菩薩の姿、そして新潟の山中で見た蓮の花が開く姿――。那須さんは想像を重ねてみずからの微笑みに手を当て、身体で表現することで心の内側が変わっていくことを感じたといいます。そしてご来光のなかでマントラを唱え、手で三角をつくり、体得した動きを繰り返すことで、弥勒瞑想が完成しました。

人生の最晩年まで魂を輝かせていた北斎。その北斎に捧げる祈り舞の制作を、那須さんもまた舞踊家人生の集大成と考えています。そこになくてはならないのが弥勒瞑想であり、「火と水の結リサイタルセミナー」にご参加のみなさまにも、ぜひご紹介したいと思っています。

北斎ゆかりのまち小布施から世界へと発信される、創造的な芸術の世界。新たなリーダーを迎えた小布施の進化とともに、2025年春に開催される創造の舞台にも、ぜひご期待ください。

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